2012年7月31日火曜日

被曝隠し対策、防護服に「確認窓」

報道によると、2011年12月、東京電力が福島第一原子力発電所事故の収束作業を請け負った建設会社が、警報機付き線量計(APD)を厚さ数ミリの鉛のカバーで覆って被曝線量を少なく見せかけていた問題で、東京電力は、胸の部分にビニール製で透明な「確認窓」のある防護服を導入すると発表した。10月から導入する。線量計に鉛カバーをつけるなどの不正があった場合に、外部から確認できるようにするものだという。

原発作業員は、年間の被曝の限度が決められていて、一定量被曝すると雇い止にされることがある。そのため、下請けの建設会社は放射線を遮る鉛のカバーで作業員の線量計を覆わせていた。
この問題は、厚生労働省が労働安全衛生法違反の疑いがあるとみて、調査を進めている。また、福島労働局などは、7月21日に第一原発内の関係先をたち入り検査した。

新たな作業服は、1日の被曝量が3ミリシーベルトを超える作業に携わる者に着用させるとしている。又、同様の不正がないかどうか、同原発で作業を請け負っている他の業者を調査することも決まっている。

政府や東京電力は、作業員の被曝の実態を解明して、今後の安全対策を講じてほしい。

《参考記事》
「被曝隠し対策、防護服の胸元透明に 東電10月から」2012年7月31日朝日新聞デジタル
ttp://digital.asahi.com/articles/TKY201207310774.html

2012年7月29日日曜日

「命の現場」の視点~柳田邦男氏のことば

今月16日、名古屋市内で、今後のエネルギー政策について、政府の第3回意見聴取会が開かれた。発電量に占める将来の原発比率について、政府が国民の意見を直接聞くものだが、発言者の中に中部電力の現役の原発担当の課長が含まれていた。

報道によると、中部電力の課長は、個人としての意見と断りながら、
「福島第一原発事故で放射能の直接的影響で亡くなった人は一人もいない」「原発をなくせば経済や消費が落ち込み、日本が衰退する」と述べ、「(政府)は、原子力のリスクを過大に評価している」とのべたという。
たしかに、直接放射能に影響で誰かが亡くなったという報道は見聞きしない。しかし、直接的な死者数では、今回の原発事故の影響をとらえることができないのではないだろうか。
原発事故によって、大量の放射性物質が放出されたために、周辺の住民や病院の患者や福祉施設に入所する人たちが、緊急に避難させられた。そして、県や自衛隊や警察による搬送中だけでも、高齢の重症患者15人が亡くなっているという。

又、復興庁の震災関連死に関する検討会の調査では、福島県内の災害関連死者数は、今年3月末現在で761人にのぼる。そして、その多くが原発事故による避難者とみられている。
避難所への移動中の肉体的・精神的疲労や避難所における生活の肉体的・精神的疲労が、死亡原因として圧倒的に多いことがわかっている。
このような死亡者数という明らかになった数字だけでは、その被害の実態は把握できないだろうと思う。住み慣れた町や村を離れて、遠くの慣れない土地で暮らすストレスや将来への不安ははかりしれないものだ。
発言した中部電力の課長には、この被害の現場に身をおいて問題を直視しようとする発想がないと、柳田邦男氏は指摘する。柳田氏は、政府の福島第一原発事故調査委員会やJR福知山線脱線事故調査報告書の検討会の委員の一人として、事故調査にあたってきた。
事故から1年以上たっても、避難生活を余儀なくされている人は、約16万人にのぼるという。柳田氏は、その避難している人の一人がもし自分の親だったらと、被害に遭っている人々に寄りそう潤いのある目を、官僚や公共性の強い企業人には持ってほしい、そうしないと国民の命を守ることはできないと訴える。
そして、柳田氏は「原発はプラントの安全性だけで成り立つのではない、地域の人々の命や生活の安全を不可欠の条件とする社会システムなのだという意識」が、電力会社には希薄なのではないかともいう。
住民や被害者の視点から、原発の安全性を徹底的に検証してこそ、政府や電力会社は国民の信頼を得られるのだと、気づいてほしい。
《参考記事》
○「『命の現場』の視点で検証を 柳田邦男」毎日新聞 2012年07月23日 東京朝刊6面
○「死因最多は『避難生活の疲れ』 震災関連死の調査公表」2012年7月13日03時00分朝日新聞http://digital.asahi.com/articles/TKY201207120671.html
○「また電力社員が発言 名古屋聴取会」2012年7月17日 東京新聞朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012071702000092.html

2012年7月27日金曜日

中国高速鉄道事故~事故の記憶の風化を防げ

2011年7月23日夜、中国浙江省温州市で、北京発福州行きの高速鉄道が、雷雨のため高架上を徐行運転していた杭州発福州行きの高速鉄道に追突した。高速鉄道は前の列車と合わせて6両が脱線し、後ろの列車は4両が高さ2~30mある高架橋から転落した。

中国政府の発表では、死者は40人、負傷者は172人とされている。報道によると、中国政府は、事故の調査結果の中で、運行システムに安全上の問題があったことをみとめた。また、鉄道建設を急ぐあまり、工期を短縮し、安全にたいする責任が徹底されていなかったと指摘しているという。

しかし、現場からは事故の痕跡が消され、そばの空き地は自動車教習所にかわり、追悼式典なども行われないなど、事故の記憶が風化されようとしているようだ。
温州南駅操車場には、事故を起こした車両の残骸が積まれて放置され、車両の中には、事故当時の新聞や弁当箱などが散乱しているままだという。
十分な「事故原因の検証」のためとして、事故現場から運ばれたものの、検証もされずに放置されているのかもしれない。

泥まみれの事故車両の残骸に、事故の記憶を押しこめて、事故原因の検証を行うことなく、鉄道建設を押し進めるなら、また同じような事故が起きる。しかし、それは、事故の被害者や遺族がもっとも恐れることだ。中国政府には、二度と悲惨な事故を起こさないよう、安全な鉄道をめざしてほしいと思う。

《参考》 昨年の拙ブログ記事
「中国高速鉄道事故~徹底した事故調査と情報の公開を」
《参考記事》
「中国、車両放置・追悼式せず…高速鉄道事故1年」(2012年7月23日08時16分  読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20120723-OYT1T00213.htm