2014年7月31日木曜日

国交省「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成25年度)」を公表

 7月30日、国土交通省のホームページによると、国交省鉄道局は「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成25年度)」を公表した。

 それによると、平成25年度は、踏切事故が前年度にくらべて、8件減って287件、死亡者数は30人減って90人となった。
 死亡者数が大きく減ったのは、自動車などの「直前横断」が減って、「直前横断」の死亡者数が26人減って61人となったことが大きい。
 踏切の安全施設を管理する鉄道関係者や踏切道を管理する自治体などが、事故防止キャンペーンなどに取り組んだ成果だろうと思う。

 しかし、死亡者数が大きく減ったとはいえ、昨年度の踏切事故の中には、お年寄りが渡り切れずに踏切内に取り残されて電車に撥ねられたり、踏切内のお年寄りを助けようとした女性が電車に撥ねられて亡くなるなどの踏切事故が相つぎ、踏切事故の問題が報道などで大きく取り上げられた。深刻な問題を抱える踏切の事故が多かった。
 また、第3種(警報機あり、遮断機なし)・第4種(警報機なし、遮断機なし)踏切の事故は、合わせると44件で、前年度に比べて変わらなかった。遮断機のある踏切に比べて、事故が起きる割合が大きい状況は、変わっていない。第3種・第4種踏切の割合は全体の11%だが、事故は踏切事故全体の15.3%をしめている。

 お年寄りが渡り切れない長い踏切や、凹凸のある歩きにくい踏切の問題は、どう解決されるのか。踏切を渡る人や電車を運転する人の注意に頼る「安全対策」ではなく、具体的な対策をとるべきではないのか。
 鉄道会社が踏切警報時間を設定する際の人の歩く速さが、お年寄りが歩く速さよりも早いため、お年寄りが警報時間内に渡り切れないことがわかっている。踏切ごとに、通行者の実態を把握して、お年寄りが多ければ、警報時間の設定を検討した方がよいと思う。
昨年8月、お年寄りが渡り切れずに電車に撥ねられて亡くなった。
横浜市鶴見区生麦にある生見尾踏切。  2013年8月24日撮影
また、凹凸のある踏切道は、健常者だけでなく、お年寄りや車いすに乗って渡る人や、ベビーカーや手押し車を押しながら渡る人にとって、大変渡りにくいことが、テレビの報道などからわかった。
昨年4月、電動車いすに乗って渡っていた男性が亡くなった。
大阪府高石市羽衣7号踏切。カーブの途中にある。2014年7月20日撮影
線路のカーブにある踏切では、線路の外側が内側よりも高くなっているため、どうしても道路に凹凸ができる。特急や急行がカーブでスピードを落とさないためには、線路の高低差が必要なのだろう。しかし、踏切を渡らねば、生活できないお年寄りや近くに住む人のことも考えてほしい。毎日、小学校へ通学するために、危険な長い踏切を渡らねばならない子どもたちのことを考えてほしい。

 事故を減らすには、一つ一つの事故の実態を把握しなくてはならないと思う。数字の中の一つ一つの事故を具体的にみることで、それぞれの踏切にあった安全対策が出てくるのではないか。
 
 

今年2月、自転車で横断していたお年寄りが取り残されて亡くなった。
カーブの途中にあるため、凹凸が大きい。
東京都足立区千住東1丁目にある踏切。 2014年2月12日撮影。
《参考》
写真の踏切の事故については、それぞれ拙ブログでとりあげた。

なお、「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報(平成25年度)」は国土交通省鉄道局ホームページ
http://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_fr8_000019.html

《追記》
第3種・第4種踏切の事故件数について、記述追加しました。(2014年8月2日)

2014年7月26日土曜日

乗用車と電車が衝突・脱線~千葉県流鉄流山線の踏切事故

 報道によると、7月11日午後2時5分ころ、千葉県流山市と松戸市を結ぶ流鉄流山線の踏切で、線路内に入ってきた乗用車と2両編成の電車が衝突し、1両目が脱線した。
 踏切は、小金城趾駅と幸谷駅の間にあり、警報機・遮断機はない。幅は1.5mくらい、長さも4mくらいだろうか。現地に行って驚いたのは、踏切の周辺が住宅地だということだった。東京に近い住宅地の松戸市に、いまだに警報機も遮断機もない踏切があることに驚いた。
 乗用車は電車に衝突したあと、電車に約30m引きずられて大破した。乗用車に乗っていたのは、踏切のすぐ前に住む夫妻で、車内から救出されたものの、亡くなった。

千葉県流山市流鉄流山線の踏切。警報機や遮断機がない。
事故のあった午後2時ころ。 2014年7月23日撮影。
警報機・遮断機のない踏切の手前では、電車の運転士は警笛を鳴らすことになっている会社が多いと思うが、今回の事故の際、事前に鳴らしていたかどうかわからない。
 
 
 また、踏切の手前はカーブしている。列車の運転士からは踏切がどの程度の距離からみえるのだろうか。線路内に入って来た乗用車に気付いて急ブレーキをかけたが間に合わなかったという。
 車庫から出ようとする乗用車からは、家のフェンスなどで列車の来るのが見えにくい。
 危険だから、踏切に警報機などを設置してほしいと住民の方から要望が出されていたという。

 ダイヤを見ると、列車の本数も1日上下144本あった。事故のあった昼間の時間帯では1時間に上下各3本ある。1時間に6本、平均10分毎に列車が踏切を通過する。朝6時・8時台は、1時間に上下10本の電車が、警報機も遮断機もない踏切を通過する。平均して6分おきに、電車が通過する計算になる。
列車の来た小金城趾駅の方角を見る。乗用車が
止まっていたところからは、電車の来るのが見えにくい。
                        2014年7月23日撮影

乗用車が列車が通過するのを待っていたところ。路面には、電車が
脱線したときの衝撃のせいか、ひびが入っているところがある。
                            2014年7月23日撮影
事故のあった踏切の前後にも第4種の踏切が2か所あった。住民の方が生活に必要としている踏切で、ここを渡らないと外に出られない。踏切を通行する人は少ないかもしれないが、運行本数が増えた鉄道にとって、いったん踏切で事故が起きれば、重大な問題になる。それなら、通行者の多少にかかわらず、警報機や遮断機を設置すべきではないかと思う。
 
 運輸安全委員会は、この事故の調査のため、鉄道事故調査官を派遣した。事故調査がすみやかに行われ、事故の再発防止に役立てられるよう、願うばかりだ。
 最後になりましたが、亡くなられたご夫妻のご冥福を祈ります。

《参考記事》
「衝突した乗用車の夫婦死亡 千葉・流山線」
毎日新聞 7月12日(土)0時21分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140712-00000001-mai-soci

2014年7月25日金曜日

明石砂浜陥没事故、4被告の上告を棄却

 2001年12月、兵庫県明石市で、人工の砂浜が陥没、巻き込まれて女児が死亡するという事故が起きた。
 報道によると、7月22日、最高裁小法廷は、業務上過失致死罪に問われていたこの事故当時の、国と市の担当者ら4被告の上告を棄却した。禁錮1年、執行猶予3年とした1,2審の判決が確定した。
 この決定で、砂浜を所有する国土交通省の姫路河川国道事務所の元幹部2名と、砂浜を公園にしている明石市の元幹部の2名が有罪になった。
 国の元幹部は、「砂浜を使用しているのは市であり、国に安全管理責任はない」と主張した。
 しかし、決定は「国は市と陥没対策に取り組むなどしており、安全管理が市だけに委ねられていたとは言えない」と指摘、事故を予見できなかったとする元幹部の主張も退けた。

   朝霧歩道橋から陥没事故のあった大蔵海岸を見る。 
   向こうに見えるのは、明石海峡大橋。2014年7月21日撮影
   朝霧駅からのびる歩道橋では、2001年7月21日の明石市主催夏祭りの花火を見ようと、海浜公園に降りようとする人と駅に向かう人とが歩道橋で密集し、身動きが取れなくなった。歩道橋の上では、多くの人が、むし暑い中に閉じ込められて、群衆雪崩が発生、子ども9名を含む11名が亡くなった。けがをした人は247名にのぼった。
 夏休みに入り、家族で花火を楽しみにして、訪れた人が多かったのだろう。
市や警察が、朝霧駅から見物に来た人を歩道橋とは別の方向へ誘導して迂回させ、歩道橋に人が集中しないよう規制を適切に行っていれば、事故を防げたに違いない。
 また、歩道橋の設計にも問題があった。階段は片側にしかないため、降りる人も、上る人も同じ一つの階段に集中し、危険だ。広い公園だから、階段の用地がないということではない。手抜きとしかいいようがない。
  公園には、陥没事故で亡くなった女児をモデルにした像がたっている。
  カラフルな球体は、明石歩道橋事故で犠牲になった
  11名の方のモニュメント。
                                 2014年7月21日撮影
13年前に起きた悲しい事故を思い起こすとき、さまざまなイベントを行う自治体や関係者には、二度と同じような事故を起こさないよう、十分な安全対策を考えてほしいと思う。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
朝霧駅から歩道橋を見る。歩道橋の先には右側に下りる
階段がある。                    2014年7月14日
《参考》拙ブログでは、以前に明石歩道橋事故について、取り上げた。
ラベル「明石歩道橋事故」を参照
《参考記事》
「明石砂浜事故、4被告の上告棄却…有罪確定へ」読売新聞2014年07月24日 19時05分
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140724-OYT1T50087.html

2014年7月22日火曜日

電動車いすのお年寄りが亡くなった事故~大阪府高石市南海本線羽衣7号踏切

 報道によると、昨年2013年4月15日午後0時40分ころ、大阪府高石市加茂にある南海本線の踏切で、電動車いすに乗った男性が亡くなる事故が起きた。
 
 事故のあった踏切は、南海本線の羽衣と高石駅の間にあり、警報機・遮断機が設置された第1種踏切である。幅約2m、長さ約9mで、踏切がカーブの途中にあるため、線路の外側は脱線を防ぐため、内側よりも高くなっている。そのため、踏切道に起伏ができ、高低差が20~30センチあるという。
 四輪車は通行止めのため、事故当時、障害物検知措置はなかった。また、非常ボタンは設置されていた。
 目撃した人の話によると、男性が乗っていた車いすが踏切内に立ち往生していたという。列車の運転士が、約110m手前で、踏切内の男性に気が付き、非常停止をかけたが、間に合わなかったという。
 
高石市南海本線羽衣7号踏切 男性の来た方から
踏切内をみる。路面に高低差があり、歩きにくい。
                  2014年7月20日撮影
   現場は、カーブするレールを跨ぐ踏切で、半径は300mくらいだろうか、運転士からすると、カーブを曲がって踏切が見えた時には、100mくらいまで接近しており、非常停止が間に合わないのだろう。それならば、見えてからブレーキをかけるのではなく、踏切内で取り残されている人をもっと早く検知して、電車が止まれるようにすべきではないだろうか。
 高低差のある踏切道の中で、車輪がレールなどに挟まったりしたのか、事故の状況は定かではないが、踏切に取り残された男性の恐怖は如何ばかりだっただろうと思うと、胸が苦しくなる。
羽衣7号踏切から列車の来た方(高石方面)を見る。
                         2014年7月20日撮影
  事故のあった踏切の付近は、南海本線の高架化工事が行われている。
南海本線・高師浜線(高石市)連続立体交差事業は、南海本線の羽衣駅から高石駅までの約3.1kmと高師浜線の約1.0kmで、鉄道を高架化することにより、13ヶ所の踏切を除却、都市内交通の円滑化を図るとともに、分断された市街地の一体化により都市の活性化を図る事業だとされている。2019年度完成予定で、総事業費約550億円にのぼる。
 高架化工事が進められている中で起きた今回の事故、残念で仕方がない。工事の間だけでも、踏切の幅を広げたり、路面を整備して通りやすくするとか、誘導員を置くこといったことはできないのだろうか?
羽衣7号踏切を斜め横からみると、起伏があるのがわかる。
右手に高架化工事途中の橋脚がみえる。
                        2014年7月20日撮影
この踏切の前後には、同じカーブの上にあるために、羽衣7号踏切と同様の起伏のある踏切が2か所、羽衣6号踏切と羽衣9号踏切がある。踏切の幅が狭い上に、起伏があって歩きにくく、電動車いすで渡ろうとすると、入口の車両通行止めのポールに車いすがあたってバランスをくずしたりしかねない。また、路面の起伏に、車いすの底面があたって、車いすの前輪が浮いて動けなくなったりしないだろうか?
 車高の低い車が、踏切の凸凹した路面にあたって動けなくなることがあるというが、そのような状況が車いすにもあるかもしれない。
 周辺は住宅街で、多くの人が生活道路として通行する。電動車いすの男性も日ごろから、この踏切を利用していたと言う。踏切道を管理する自治体や、安全装置を管理する鉄道事業者には、高架化工事を進めながら、既存の踏切の安全対策も十分考えてほしい。
 
 
 
 最後になりましたが、亡くなられた男性のご冥福をいのります。
《参考記事》
「車いす男性 踏切で死亡 大阪・高石 起伏で立ち往生か」2013年(平成25年)4月16日読売新聞
「電動車椅子の男性死亡 踏切で立ち往生? はねられ」2013年(平成25年)4月16日毎日新聞 

2014年7月14日月曜日

千葉県流山市:流鉄流山線第11号踏切で、脱線事故

 報道によると、7月11日午後2時ころ、千葉県流山市と松戸市を結ぶ流鉄流山線の第11号踏切(松戸市大谷口)で、踏切内に入ってきた乗用車と列車が衝突、1両目が脱線した。また、乗用車は衝突で大破し、乗っていた近くに住む夫妻は救出されたが、病院で死亡が確認された。

 同踏切は、警報機・遮断機がない第4種踏切で、付近の住民の生活道路として使われており、亡くなった夫妻の家も踏切の近くだという。
 住民が取材に答えているところによれば、以前にも列車と自動車が衝突する事故があり、踏切に警報機を設置してほしいと要望していたという。また流鉄も住民と対策を話し合っていたと答えている。安全対策が決まらないうちに起きた悲惨な死亡事故に、何ともやりきれない思いがつのる。

 ニュース映像をみると、事故のあった流山線の周辺は住宅地化しており、このような東京近郊の住宅街に、第4種踏切が残っていることに驚いた。
 事故がどのように起こったのかまだ定かではないが、踏切からの見通しが悪く列車がくるのが分かりにくくなかったかどうか、踏切の路面などが悪くなかったか、運輸安全委員会において十分調査されることを望みたい。
 国交省は、事故率の高い第4種や第3種踏切(警報機あり遮断機なし)を、第1種踏切に改善するよう鉄道事業者に働きかけているという。補助金制度なども含めて、中小私鉄が改善を進めやすいよう、安全対策を進めてほしい。

最後になりましたが、亡くなられたご夫妻のご冥福を祈ります。

《参考記事》
「千葉の踏切事故 乗用車の夫婦2人死亡」NHKオンラインニュース2014年7月12日1:08
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140712/k10015954251000.html
「踏切事故:衝突した乗用車の夫婦死亡 千葉・流山線」毎日新聞2014年7月12日00時21分
http://mainichi.jp/select/news/20140712k0000m040140000c.html

2014年7月2日水曜日

安全工学シンポジウム2014~安全・安心な社会をめざして

 
 7月10日(木)、11日(金)、日本学術会議総合工学委員会主催による「安全工学シンポジウム2014」が、東京都港区田町の建築会館で開催される。33の学協会が共催・協賛して、さまざまな分野の研究が発表される。

 
 OS-5 「繰り返される事故~事故防止のあり方を考える」では、踏切事故の遺族や、柔道事故の被害者家族が、研究者や専門家とともに、事故を防ぐには、何が必要か考える。
 なぜ事故が無くならないのか、事故をなくすにはどうしたらよいのか、ぜひ、多くの方々に一緒に考えていただきたいと思う。
 
詳しくは、以下のホームページを参照
「安全工学シンポジウム2014」

 
OS-5「繰り返される事故―事故防止のあり方を考える」
 71014:3017:00 建築会館会議室
  1.繰り返される事故〜事故防止のあり方を考える〜○加山宏(安全工学会)
  2.都市における踏切事故と安全対策○加山圭子(東武伊勢崎線竹ノ塚踏切事故遺族)
  3.脳震とうと繰り返し脳損傷 ○小林恵子(全国柔道事故被害者の会)
  4.未解決事故の原因を究明する ‐ 事故例からのアプローチ ‐
                 ○一杉正仁(滋賀医科大学)
  5. 責任追及と再発防止-事故調査の社会的位置づけ ○米倉勉(弁護士)
    6.「組織罰」についての考察 ○本江彰(日本ヒューマンファクター研究所)
    7.再発防止から未然防止へ(2) ○高杉和徳(製品安全コンサルタント)