2015年12月15日火曜日

危険な踏切の対策を急げ

報道によると、12月12日、国土交通省は、歩行者が事故に遭う可能性のある危険な踏切の対策を加速させる方針を固めた。

踏切内の歩道の拡幅、道路と鉄道の連続立体化などの改良の方法が決まらなくても、国の判断で「改良が必要な踏切」に指定し、自治体と鉄道会社に取り組みを促すことを柱とするという。
対象となる踏切は全国1000か所以上になる見込み。次期通常国会に踏切道改良促進法改正案を提出する。

国土交通省鉄道局の「鉄軌道輸送の安全にかかわる情報 平成26年度」によると、2014年度(平成26年度)には、踏切では246件、事故が発生、92人が死亡している。亡くなった人の約8割は歩行者で、そのうちの4割が65歳以上の高齢者である。

2012年、2013年と、二人の女性が、踏切で倒れていた高齢者を助けようとして亡くなるという痛ましい事故がおきた。

女性が亡くなった踏切の横に、JR東が献花台を設けた。
朝早くから、献花に訪れた人がいた。2014年9月30日撮影

他の交通事故と同様、踏切においても、歩行者、特に高齢者が関わる事故が増えている。国交省は、今年10月「高齢者等の踏切事故防止対策について」も公表し、対策を強化する予定だ。

平成28年度から「第10次交通安全基本計画」がはじまる。この中でも、踏切道における事故対策が重視されている。鉄道と道路が平面交差する踏切は、もっとも危険な場所といえる。にもかかわらず、遮断棹は簡単にくぐれてしまうし、警報機は遠くからは見えにくい場所もある。カーブにある踏切道は、でこぼこしていて歩きにくく、お年寄りでなくても、躓いたり転んだりしかねない。

踏切を通らなくては、生活できない人がたくさんいる。私もその一人だ。
踏切の道路を管理する自治体と、踏切の施設を管理する鉄道事業者は、協力して安全対策を進めてほしいと、切に願う。
 
≪参考記事≫
「踏切改良、国の後押し加速 歩行者事故対策で国交省」東京新聞2015年12月13日

2015年11月8日日曜日

第10次交通安全基本計画(中間案)についての意見

 交通安全基本計画は、交通安全基本法に基づき、陸上、海上及び航空交通の安全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱等を定めるものだ。
 現在、内閣府では、平成28年度から始まる第10次交通基本計画の作成に向け、作業が進められている。これまでの中央交通安全対策会議での検討を踏まえて、中間案がまとめられ、11月6日、公聴会が開催された。
 この公聴会には、関係する各省庁と各都道府県・政令指定都市の担当者も傍聴した。
 私も幸い公述する機会をいただいたが、公述する時間が8分と短いため、問題を絞って意見を述べさせていただいた。(公聴会で述べたことをまとめたので、以下に掲載します)
 なお、昨年9月に、内閣府は意見聴取会を開催して、交通事故被害者団体などから、交通安全基本計画にたいする意見を聴取、踏切事故遺族の会「紡ぎの会」も意見を述べさせていただいた。

~~~~第10次交通安全基本計画(中間案)にたいする意見~~~~
                                       平成27年11月6日
1.中間案の理念について
(1)事故を無くすには、なぜ事故が起きたのかを調査することが必要であり 各交通おける事故  調査体制を充実させることが肝要です
従って「理念」に「事故調査体制の充実」という項目を設定し、大きな目標に挙げることが必要です
(2)事故情報は当該事業者だけでなく、技術者や研究者、市民等各方面で共有されるべきと考えます。そのため「事故情報の共有・公開」という項目をたてるべきと考えます。
又、公的機関や鉄道事業者等、専門機関の事故調査にあたり、事故当事者の個人情報は直接個人を特定できる情報以外の情報は制限せず、情報公開すべきです。事故情報は再発防止や類似事故の未然防止という公益性があり、交通安全に資するものです。

2.「第3章踏切道における安全
(1)踏切事故が毎年300件前後起き、100人前後の方が踏切で死亡しています。しかし、25年度26年度と事故は300件を下回り、死亡者も100人を切りました
なぜ事故が減少したのか検討し、どんな対策が効果をあげたのか検討するならば、一層事故を減少させることができます。「平成32年度までに踏切事故件数を平成27年度と比較して約5割削減することをめざす」と目標を設定すべきです。(86ページ「目標」踏切事故件数約1割減に対して)
2)踏切事故の多くは鉄道事業者と踏切道管理者が協力すれば防止できます。今後の踏切道における交通安全対策を考える上で「道路管理者と鉄道事業者が協力し踏切安全通行カルテを作成・公表」(中間案89ページ)は有益です
具体策の実現にあたり、予算の後押しをお願いします。
3)被害者支援について、鉄道交通及び道路交通では、項目をとり詳細に記載されていますが、踏切交通については記載がありません。踏切道も鉄道交通のように、公共交通事故の被害者である場合は、支援の対象と考え、対策を講じるべきです
従って「被害者支援の実施」という項目をたてていただきたいと思います。
                                                          以上
≪参考≫
 内閣府は、この第10次交通安全基本計画(中間案)に対する国民からの意見を募集している。意見募集の締め切りなどについては、内閣府ホームページ
http://www8.cao.go.jp/koutu/kihon/keikaku10/kaisai.html

2015年10月31日土曜日

高齢者などの踏切事故防止対策を検討、公表~国土交通省

 国土交通省は、10月7日、高齢者や移動に制約を受けている人たちの踏切事故防止対策について、昨年7月から検討してきた結果を公表した。
 踏切事故は、長期的には減少傾向にあるとはいえ、最近は、高齢者(65歳以上)や移動に制約のある人(以下「高齢者等」と略)が車いすに乗るなどしていて、踏切道を渡りきれずに死亡する事故が相次ぎ、事故をどのように防止すべきか、検討が迫られていた。

 国土交通省が今回公表した「高齢者等の踏切事故防止対策について」によると、踏切事故件数290件のうち、歩行者は約3割、死亡者の約7割は歩行者である。また、死亡した歩行者のうち、約4割は65歳以上の高齢者である。
 このように、踏切事故において、65歳以上のお年寄りなどが事故に遭う割合が大きいことがわかった。そのため、踏切事故防止対策の検討会では、鉄道事業者から踏切で記録された画像を提供してもらい、具体的な事例を分析することにした。事例を、警報機及び遮断かんの動作状況と高齢者等の通行状況を整理し、事故原因を分析、事故防止対策について検討した。

 ここでは、12例を警報機が鳴りだす前に進入した場合と警報機が鳴動中に進入した場合とに分けて分析している。
 踏切道を渡りきれない場合の原因として、歩行速度が遅いこと、踏切内の段差やレールと路面との隙間に歩行者の足やシルバーカートの車輪等がひっかかり転倒すること、歩道がないか歩道幅員が狭いために自動車とすれ違う際に歩行を中止することがあげられている。
 遮断かんに阻まれて踏切道から出ることができないのは、遮断かんを持ち上げたり、くぐることができないことが原因であることがわかった。また、警報機鳴動後に踏切道に進入するのは、警報機が見えづらい等により踏切を認識していない可能性があることもわかった。

 これらの分析から、比較的短期間で技術的に実現性が高いと考えられる14の対策を検討、そして、それぞれの踏切道の状況に応じて、各対策の採択や組み合わせを考えるよう、提言している。
 
 今回の事故防止対策は、踏切に設置されたカメラの画像を分析して、具体的に対策を検討していることが注目に値すると思う。また、踏切の道路管理者と鉄道事業者が協力して「踏切安全通行カルテ」を策定・公表し、重点的に対策を推進していくよう求めている。

 今後も、踏切事故を無くす対策を着実に進めるために、関係機関が協議を重ねっていいてほしいと思う。

≪参考≫
国土交通省ホームページhttp://www.mlit.go.jp/common/001105649.pdf
「高齢者等の踏切事故防止対策について」高齢者等による踏切事故防止対策検討会
平成27年(2015年)10月 
 

2015年9月30日水曜日

横浜市中山駅川和踏切の事故から二年

 踏切に倒れていたお年寄りを助けようとした村田奈津恵さんが亡くなって、明日で二年がたつ。

 報道によると、村田さんは、父親と会社に戻る途中で、父親の運転する車の助手席にすわっていた。川和踏切にさしかかり、遮断機の前で踏切が開くのを待っていると、お年寄りが踏切内に入ってきた。踏切内の横たわったお年寄りを助けようと、父親の制止を振り切り、遮断機をくぐり、お年寄りに近づき、線路の間に横たわらせた。直後、電車が踏切に入ってきた。村田さんは電車に撥ねられて亡くなった。
横浜市中山駅そばの川和踏切。横浜線の電車が通過する。
                       2015年9月30日撮影

 事故当時、なぜ村田さんは亡くなったのかと思った。なぜ、電車の運転士は、踏切の手前で止まれなかったのか。
 事故当時、川和踏切には、警報機も遮断機も、障害物検知器や非常ボタンも設置されていた。 
 しかし、踏切内の異常を電車の運転士に知らせる踏切の障害物検知器が、人を検知しない設定になっていた。鉄道会社によれば、人を検知するように設定すると、小動物なども検知してしまい、その都度、電車を緊急停止することになって、運行に支障をきたすというのだ。
 川和踏切はそんなに広くない踏切なのに、バスやトラックなどが行きかい、その横の狭い路側帯をお年寄りや子供を連れた母親、車いすの人たちが通行する。踏切は車両だけでなく、多くの人が通行している。だから、踏切内に取り残された人も検知できるようにすべきだと思う。検知したら、電車がすぐ止まらなくても、減速して踏切に接近すれば、その間に取り残された人も踏切から脱出できるかもしれない。
 
 電車が衝撃すると、多大な被害をうける自動車は検知するように設定しているのに、なぜ、人は検知しないのか。そのとき、いだいた問いかけは、今も続く。
 事故の後、踏切で人を検知し電車を安全に止めるしくみを考えようと、さまざまな取り組みが進められているときく。
 
 また、川和踏切では、非常ボタンの位置がわかるように目印となる張り紙をしたり、踏切の上に信号を設置し、遠く離れた車両からも、踏切の信号がわかるようにした。
 
 村田さんの尊い命が生かされるように、二度と同じような事故が起きないように、踏切の改善と安全対策をすすめてほしい。高架化の計画があるならば、スピード感をもって取り組んでほしいと思う。

 最後になりましたが、心より村田奈津恵さんのご冥福をお祈りいたします。
川和踏切には献花台が設けられていた。
その横には村田さんのメッセージが
貼られていた。    2015年9月30日撮影

≪参考≫
拙ブログでは、2013年10月、この事故について書いた。
「踏切の障害物検知器、人を感知せず~JR横浜線川和踏切」2013年10月3日
http://tomosibi.blogspot.jp/2013/10/blog-post_3.html
「お年寄りを助けようと踏切へ~JR横浜線川和踏切」2013年10月2日
http://tomosibi.blogspot.jp/2013/10/blog-post.html

2015年9月2日水曜日

大阪市教育委員会、組体操の段数制限へ~児童・生徒の安全を優先

 報道によると、9月1日大阪市教育委員会は、市立小中高校の運動会で行われている組体操「ピラミッド」「タワー」の段数を制限することを決めた。全国で、組体操中の骨折事故などが多数報告されていることを受けて、規制に踏み切った。組体操の段数の制限は全国でもめずらしいというが、専門家からは、危険性が指摘されていた。

 四つん這いになって重なるピラミッドの高さは5段まで、肩の上に立って重なるタワーは3段までに制限することとし、市立幼稚園や特別支援学級も規制の対象にする。
 大森不二雄委員長は「組体操が運動会の華でありつづけて良いのか。『いくらなんでも』と言われないよう上限を設けた。実施にあたっては、安全性が確保できるか校長が慎重に検討し、不安を覚えたらやめていただきたい」と話しているという。

 ピラミッドの9段の高さは6~7mに達し、建物の2階相当、タワーの5段も3~4mに達する。
日本スポーツ振興センター(東京)によると、全国の組体操中の事故は2013年度、小学校で6349件、中学校1869件、高校343件起きている。骨折事故は小中高合わせて2千件を超すという。
 名古屋大学の内田良准教授(教育社会学)によると、2004年から2013年度までの10年間に、全国で死亡事故の報告はないものの、障害の残るケースが19件あったという。内田准教授は
「感動や一体感ではなく、何よりも児童・生徒の安全が重視されるべきだ」と話している。
 
 内田准教授の著書によると、労働の安全衛生についての基準を定めた「労働安全衛生規則」(厚生労働省)は、高所での作業について定めている。ここには、床面からの高さ2m以上の高所での作業について、「墜落等による危険の防止」のために、細かな規制が定められている。長くなるが引用する。

 第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある個所には、囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
 2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に安全帯を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。

 内田准教授は、労働者である大人が2メートル以上のところで仕事するときには、ここまで厳しい管理が事業者に求められているのに、子どもたちが組体操という高所での教育活動に従事するときには、学校側には何の管理も求められていないと指摘する。

 組体操には「囲い」もない。「手すり」も「覆い」も「防網」もない。子どもたちは、つかまるところもない状況で、組体操という高所作業に取り組んでいるのだ。大人の労働の世界ではあってはならないことが、子どもの教育の世界では繰り広げられている。
 また、組体操の巨大化は、高所にのぼる子どもを危険にさらすだけでなく、土台となる生徒にかかる負担にも注目しなければならないという。
 内田准教授が、人間ピラミッドの基本形10段を例にして、土台(1段目)にかかる負荷量を計算した。
 それによると、10段(計151人)の場合、土台の中でもっとも負担が大きいのは、背面から2列目の中央にいる生徒で、3.9人分の負荷がかかる。中学2年男子(全国平均48.8kg)で約4人分計190kgの重量が、一人の生徒にのしかかっているというのだ。

 なぜ、それほどまでに危険な組体操をするのか。
戦後の一時期をのぞいて、「学習指導要領」から姿を消した「組体操」。2000年代に入って、再び取り組まれるようになり、巨大化・高層化した。また、低年齢化した。
 組体操を指示する教育者によれば、組体操の教育的意義は子どもが「感動」や「一体感」「達成感」を味わうことができることにあるという。しかし、その教育的意義に目を奪われて、危険性が見えなくなっているのではないか。子どもたちが信頼し合って巨大なオブジェを作り上げることの意義にばかり目がいき、リスク管理を忘れているのではないか。

 「感動」や「一体感」は、組体操を巨大化・高層化しなくても得られるのではないだろうか?運動会の演目で、感動を呼ぶものが危険であってよいはずがない。

 私は、子どもたちが運動会で元気に楽しそうに走りまわるのを見るだけで感動している。

≪参考≫ 
内田良(名古屋大学大学院准教授)著
「教育という病 子どもと先生を苦しめる『教育リスク』」 光文社新書
≪参考記事≫
「人間ピラミッド5段まで 事故防止へ、大阪市教育委員会が規制」2015年9月1日朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASH805CRNH80PTIL01P.html

2015年8月31日月曜日

軽トラックと列車が衝突~東広島市JR山陽線鍵谷第1踏切~

 8月26日午後3時20分頃、東広島市のJR山陽線西高屋駅・白市駅間にある鍵谷第1踏切で、軽トラックと白市駅行きの上り電車が衝突、軽トラックは横転し、運転していた女性(79歳)が亡くなった。

 報道によると、JR西日本は、電車の運転士が踏切内に進入する軽トラックを発見し、急ブレーキをかけたが、間に合わなかったという。
 現場の踏切は、第4種踏切で、警報機や遮断機が設置されていない。
 報道によると、付近の住民が5年前に、JR西に対して、危険だから警報機や遮断機を設置してほしいと要望していた。しかし、踏切を通行する人が少ないことを理由に断られたという。
 また、報道の中には、現場は線路がカーブしているところに踏切があるため、踏切から電車が見えにくいのではないかという指摘もあった。

 踏切は山間部にあるため、線路がカーブしていたり、線路の脇に山が迫っていたりして、電車がくるのが見えにくいこともあるかもしれない。電車の接近を通行者に知らせる仕組みが欠かせないと思う。
 JR西では、今回事故のあった鍵谷第1踏切の近くの堀川踏切でも、2006年12月とその2年前に死亡事故が2件起きている。堀川踏切で亡くなった高校生の両親がJR西を相手に民事裁判をおこし、広島地裁は、対策をとらなかったJR西に損害賠償を命じた。その後、JR西と両親は和解したが、その間にJR西は、堀川踏切を警報機・遮断機のある第1種に改善した。また、非常ボタンも設置している。
 堀川踏切と同じように警報機・遮断機のない鍵谷第1踏切が、同じ駅間にあるのなら、JR西はどうしていっしょに改善しないのだろう。

 昨年から、遮断機のない踏切で起きた死亡事故については、運輸安全委員会が事故調査をし、調査結果を事故の再発防止に役立てる。今回も、事故調査が開始された。
 運輸安全委員会の事故調査が迅速に徹底的になされ、事故を防ぐ対策に生かされるようにしてほしい。

 最後になりましたが、亡くなられた女性のご冥福をお祈りいたします。

≪参考≫
運輸安全委員会
「鉄道事故の概要 」
http://jtsb.mlit.go.jp/jtsb/railway/detail2.php?id=1877
≪参考記事≫
「山陽本線1人死亡衝突事故 事故調査官が調査」(広島テレビ)
http://news.home-tv.co.jp/news.php?ymd=2015-08-27&c=&id=2015-08-272
「死亡事故の踏切 以前から改善要望」 8/27 11:53 (広島テレビ)
http://www.news24.jp/nnn/news8665805.html

2015年7月22日水曜日

認知症のお年寄りが亡くなった事故~JR東海道線共和駅をたずねて

 2007年12月愛知県大府市JR東海共和駅で、認知症の症状のある男性(当時91歳)が、電車に撥ねられて亡くなった事故をめぐり、JR東海は男性の遺族に対して損害賠償請求をもとめていた。
 2014年4月24日、名古屋高裁で、この裁判の控訴審判決が言い渡された。
 裁判長は、判決で、認知症だった男性の配偶者として、男性の妻に民法上の監督義務があったと認定して、損害賠償の支払いを命じた。また、男性の長男には見守る義務はなかったとして、JR東海の請求を棄却した。一審の名古屋地裁では、男性の介護に携わっていた妻と男性の長男に対して、JR東海の請求通り約760万円の支払いを命じていた。
JR東海共和駅のホーム端には、階段が設置されている。施錠されていなければ
階段を下りて、線路に出られる。              2015年7月12日撮影

JR東海大府駅の改札口。男性は、切符を持っていなかったが、駅改札を通って
隣の駅へ行ったとみられている。               2015年7月12日撮影
判決では、男性の妻が、人の出入りを検知する入口のセンサーのスイッチを切っていたことから、「徘徊の可能性のある男性の監督が十分でなかった」と判断した。
 一方で、判決は、男性の長男の妻は、長男夫妻の住む横浜から、男性の住む大府市に転居し、男性の妻とともに男性を在宅介護をしていたことを評価した。そして、JR東海が駅で利用客等に対して十分な監視をしていれば、また、共和駅先端のフェンス扉が施錠されていれば、事故の発生を防止することができたとした。
共和駅ホーム端にはフェンスがあり、階段が設置されている。
                                 2015年7月12日撮影
事故当時は、施錠されていなかった。施錠されたのは、地裁判決の
後だった。事故当時は、回転式の留め具だけだった。
留め具は写真のように簡単に回せるから、男性は扉をあけることが
できただろう。                    2015年7月12日撮影
2015年7月12日、愛知県大府市にある、亡くなった男性のお宅を訪ねた。駅前に店を出すことを夢見ていた男性は、駅の目の前に店を出せたことをことのほか喜んでいたに違いない。
 男性の長男は、「父は、当日夕方、店の前を通る通勤客の流れにのるように歩いて行って、駅に入ったのではないか。改札を通り、突き当たると右に東海道線のホームに下りる階段がある。その階段を下りると、電車が来たので、乗車した。隣駅の共和駅でおり、ホーム端に行き、施錠されていなかった扉を開けて、階段を下りた。階段をおりたものの、今度はホームに戻る道がわからず、線路に出たところに新快速が来て撥ねられたのではないか…」と事故当時のことを振り返る。冬の夕方は暗くなるのが早い。ホームの端は暗く、共和駅手前の線路がカーブしているため、新快速の電車の運転士からは男性が見えなかったという。

JR共和駅のホーム端。男性は階段を下りた後、線路内に入ったとみられている。
新快速は共和駅を高速で通過する。            2015年7月12日撮影
男性は、出かけるときは、探しものをするように「かばんはどこか?」と聞いたりしていた。だから、出かけたいときは何となくわかったという。そんなとき、家族はいっしょに外に行き、散歩をする。外を歩くのは、気になる場所があるからだ。昔住んでいたところや、子供時代を過ごしたところへ行こうとするという。少し歩いて、それとなく「もうそろそろ帰りましょうか」と声をかける。
 認知症の人に対して、はじめから外に出てはいけないと家の中に閉じ込めるのではなく、外に出ても、安全に歩いて帰って来られることが大事なのではないか。
 
 安全に歩き戻って来られるように、町ぐるみで、認知症の人を見守る取り組みをしているところもあると聞く。認知症の人の介護を家族だけに任せるのではなく、社会で見守る取り組みがすすんでほしいと思う。

 名古屋高裁は、判決の中で、「被控訴人(注)が営む鉄道事業にあっては、専用の軌道上を高速で列車を走行させて旅客等を運送し、そのことで収益を上げているものであるところ、社会の構成員には、幼児や認知症患者のように危険を理解できない者なども含まれており、このような社会的弱者も安全に社会で生活し、安全に鉄道を利用できるように、利用客や交差する道路を通行する踏切等の施設・設備について、人的な面も含めて、一定の安全を確保することが要請されているのであり、鉄道事業者が、公共交通機関の担い手として、その施設及び人員の充実を図って一層の安全の向上に努めるべきことは、その社会的責務でもある」と、鉄道事業者の責務にふれている。
 2013年の名古屋地裁の判決に対して、認知症の人の介護をする家族や関係者からは、驚きと不安の声があがり、それに対して社会的な支援の必要を訴える識者の意見も聞かれた。
 鉄道事業者も、認知症の人への理解を進め、ホームや踏切の安全対策を検討し進めてほしい。

最後になりましたが、亡くなられた男性のご冥福をお祈りいたします。

≪参考≫
●名古屋高等裁判所判決 平成25年(ネ)第752号 損害賠償請求控訴事件 [原審・名古屋地方裁判所 平成22年(ワ)第819号]
●この事故については、以下に詳しく書かれている。
「踏切事故はなぜなくならないか」 安部誠治編著:高文研発行
  p.107~148 「介護ができない―JR東海認知症事故」 銭場裕司(毎日新聞)

≪注≫ JR東海をさす。
 

2015年6月16日火曜日

安全工学シンポジウム2015~事故防止のあり方を考える

 7月2日、3日、日本学術会議主催の「安全工学シンポジウム2015」が開催される。
同シンポジウムは、安全工学に関する各分野の問題を提起、優れた研究成果の講演と技術交流により、安全工学および関連分野の発展に寄与することを目的としている。
 会期中は特別講演はじめオーガナイズドセッション、パネルディスカッション、一般講演などが予定されている。
 なお、OS-3「事故情報と事故調査~事故防止のあり方を考える」では、以下の発表がある。
事故を無くすには、事故情報の収集と分析が欠かせない。では、踏切事故をはじめ、学校や生活の場では、どのように事故情報が集められ、再発防止に役立てられようとしているのか、事故の遺族や各分野の研究者・専門家が講演する。
 
OS-3の日時:7月2日(木)午前9時30分から11時20分
会場:日本学術会議第3室  5階 5A-(2)
内容:①加山宏(東武伊勢崎線竹ノ塚踏切事故遺族)
     「事故情報と事故調査~事故防止のあり方を考える」
    ②加山圭子(東武伊勢崎線竹ノ塚踏切事故遺族)
     「電動車いすの事故と踏切の安全対策」
    ③松田俊也(株式会社システムアドバンスト)
     「画像認識技術の踏切道障害物検知装置への応用」
    ④内田良(名古屋大学)
     「「仕方のないこと」から「公的な問題」へ~学校における柔道事故、転落事故を題材に
    ⑤本江彰(日本ヒューマンファクター研究所)
     「生活空間事故と事故調査」
    ⑥高杉和徳(製品安全コンサルタント)
     「事故の再発防止から未然防止へ~リスクアセスメントの活用~」
    ⑦米倉勉(弁護士)
     「科学的に不確実な損害と予防原則」
参加費:無料

安全工学シンポジウム2015全体については、以下のホームページを参照
http://www.anzen.org/
主催:日本学術会議総合工学委員会
共催:土木学会ほか32学協会
テーマ:安全安心な社会サイクルの構築
会期:2015年17月2日(木)~3日(金)
会場:日本学術会議(港区六本木7-22-34)
    東京メトロ千代田線乃木坂駅下車5番出口からすぐ
参加登録費:無料
講演予稿集:希望者に配布。1部5,000円(学生は2,000円)
プログラム:詳細は、安全工学シンポジウム2015 ホームページを参照http://www.anzen.org/html/Program.html

2015年5月29日金曜日

ハンドル型電動車いすの踏切事故~高砂市JR神戸線向沖東踏切

 2012年10月23日午前5時45分頃、兵庫県高砂市阿弥陀町にあるJR神戸線向沖東踏切で、電動車いすに乗って、踏切の前で、貨物電車が通過するのを待っていた男性が、電車にぶつかって亡くなった。 
 今年4月26日、男性の遺族に会うことができた。男性の遺族の話では、男性は、近くの神社にお参りに行くのが日課で、この日も朝早く家を出たところだった。
 向沖東踏切は、JR神戸線宝殿駅と曽根駅のあいだにある。警報機・遮断機・障害物検知器や、非常ボタンも設置されている第1種踏切である。(下の写真)

高砂市向沖東踏切。周辺は静かな住宅街が広がる。  2015年4月26日撮影
  男性の遺族が、踏切近所に住む男性に聞いたところによると、亡くなった男性は「遮断機がおりたため、踏切の手前でいったん停止した。その後、前のめりに倒れたあと、車いすが前に動きだし、降りていた遮断機を押し込む形で、踏切の中に入っていった。」危ないと思った男性は「非常ボタンを押そうと踏切に走ったが間に合わなかった」という。
 近所の男性は、「意識が無くなったように前かがみに倒れたあと、電動車いすのスイッチに触れたのだと思う」と語っていたそうだ。
 遺族によると、男性は、亡くなる2年ほど前から糖尿病を患い、血糖値を下げるくすりを飲んでいた。「亡くなった日の前日は夕方5時ころ夕食を終え、それからずっと食事をとっていなかった。そのため、朝、血糖値が下がり意識を失い前かがみになったのではないか。」と話していた。
 男性の遺族は、事故直後は、なぜ、男性が踏切に入ったのかわからなかったが、後日知人などから、治療薬のせいで血糖値が下がり、意識を失うこともあることを知った。
 亡くなった男性は、80歳の時、自動車の免許証を返納した。そのため、代わりになるものをと、レンタルで電動車いすを使うことにした。介護保険を使うと、レンタル料も1割の負担で済み、メンテナンスも受けられる。
 亡くなった男性が利用していた電動車いすは、アクセルレバーがハンドルよりも4センチほど上に出ている製品だったという。そのため、前のめりになった時に、レバーに体がぶつかり、前に進んでしまったのではないかと、遺族は推測している。
 
 男性の遺族は「夫は電動車いすで行動範囲が広がったと喜んでいた。高齢者が楽しく生活できるよう、電動車いすが安全な乗り物になってほしい」と話していた。
向沖東踏切を通過する電車。通行者と電車を間には、細い遮断棒のみ。
                              2015年4月26日撮影
   これから、ますます利用する人が増えるだろうと思う。 高齢者だから誤って操作したのだろうとか、まだ不慣れだったのではないかといった見方で、事故を見るのではなく、なぜ操作を誤ったのか検討し、安全対策を講じてほしい。
 事故を調査し、事故をなくすには何が必要か、関係する行政や事業者は検討してほしい。

≪参考≫拙ブログでは、以下で電動車いすの事故をとりあげた。
「電動車いすの事故~もとめられる安全対策」2015年4月1日
http://tomosibi.blogspot.jp/2015/04/3131010-8-112428138106-4-47810-2410-nhk.html

2015年5月19日火曜日

港区竹芝エレベーター事故から9年~6・3集会のお知らせ

 2006年6月3日、港区シティハイツ竹芝マンションで、シンドラー社製のエレベーターは、当時16歳の市川大輔君がエレベータから降り始めている最中に、扉が開いたまま突然上昇(戸開走行)、市川君は突然命を奪われた。そのあまりに理不尽な事故から9年が経とうとしている。
 
「生きる力」ご案内

 エレベーターは、私たちが日々生活の中で利用する身近な乗り物である。その安全は、メーカー・独立保守点検業者が情報を共有、協力して安全を厳しく維持しなくてはならないはず。
 市川大輔君の遺族らは、各方面に、なぜ事故が起きたのか、なぜ防ぐことができなかったのか、徹底的に調査・解明してほしい、事故の教訓を安全対策に生かしてほしいと訴えてきた。
 しかし、いまだに十分な再発防止策がとられているとは言いにくい。

 今年も、6月3日、大輔君の命日に、「安全な社会づくりを目指して 6・3集会」が開かれる。

日時:2015年6月3日(水)18:10~20:30
会場:港区障害保健福祉センター(ヒューマンプラザ)
    港区芝 1-8-23
    JR浜松町駅南口から徒歩8分
    *6階 講演会・報告会(竹芝小記念ホール) 開場17:30 開演18:10
    *7階 活動資料と写真展 14:00~20:30
講演:柳田邦男氏(ノンフィクション作家・評論家)
    今年で7回目になる柳田氏の講演。さまざまな事故の被害者・遺族たちを支援し続けてい      
    る。氏は、「たったひとりの命」だからこそ、事故原因と構造的背景要因をあきらかにし、次 
    の事故を引き起こさないようにしなくてはならないと話す。
他に裁判報告など:遺族、弁護士

資料代として300円
詳細は、「赤とんぼの会6・3」ホームページ http://akatonbo-6ten3.org/

2015年5月13日水曜日

お年寄りが亡くなった踏切~兵庫県川西市絹延橋第1踏切

 2013年11月21日午後4時半ころ、兵庫県川西市にある絹延橋第1踏切で、杖をつきながら踏切を渡っていた高齢の女性が、渡りきらないうちに遮断機が下り、踏切内に取り残され、電車に撥ねられて亡くなった。女性は遮断機が下りたので、あわてたようすで、転んでしまった。そこへ、川西能勢口発妙見行き普通電車が来たという。

 絹延橋駅は、能勢電鉄川西能勢口駅から、一つ目にある。この駅の南側に絹延橋第1踏切がある。幅は約8m、長さは8mくらいだろうか。電車の来た方は、カーブしており、電車の運転士が女性に気がついたのは踏切の手前30mくらいで、非常ブレーキをかけたが間に合わなかったということだ。また、踏切が開くのをまっていた車の運転手は、女性を助けようとしたが間に合わなかったという。

 

絹延橋駅改札口を出ると、右手に絹延橋第1踏切があった。電車の来た方角
川西能勢口方面は、右にカーブしていた。       2015年4月19日撮影

 踏切はカーブの途中にある。そのため、線路の外側が高くなっている。踏切道内は起伏ができていて、決して長い踏切ではないが、歩きにくい。足の悪いお年寄りだったら、歩くのが遅くなる。

 鉄道に関係する人は、電車が高速で走るには線路の外側を高くする必要があるという。しかし、踏切を通行しなくてはならない人にとっては、そういう構造の問題が、命取りにもなるということを、忘れないでほしい。
 構造上の問題は解決が難しいというが、急なカーブでは速度を落とせばよいのではないだろうか?そうすれば、線路の外側を高くしなくてもよいのではないだろうか?
急なカーブであっても高速で通過しようと思わないで、踏切を日々通行する人のことも考慮して、構造上の問題も解決してほしい。

 最後になりましたが、亡くなられた女性のご冥福を祈ります。


絹延橋第1踏切の右手、川西能勢口方面から普通電車が来た。
駅は左手にある。                     2015年4月19日撮影
<参考>拙ブログでは、以下で取り上げた
「杖をついた女性、踏切渡り切れず~兵庫県能勢電鉄の踏切 」2013年11月23日
http://tomosibi.blogspot.jp/2013/11/blog-post_23.html

2015年5月7日木曜日

両側に路側帯を設置~東武伊勢崎線北千住東踏切

 半径310mの急カーブにある東武伊勢崎線北千住東(伊21号)踏切は、東武伊勢崎線北千住駅の南約670mのところにある。長さは、約23mで5本(レール本数は10本)の線路が東西に横切っている。ここは、ピーク時には、1時間のうち40分以上閉まっている開かずの踏切だ。
 昨年2月6日、この踏切を、76歳の女性が自転車を押しながら渡っていて、踏切内に取り残され、急行電車に撥ねられて亡くなった。

 事故当時、路側帯は片側にしかなく、車両が混雑すると、狭い路側帯を両側から通行人が行きかい、危険だと思われた。
 そんな中、女性は警報機が鳴りだしたので、踏切内で立ち往生してしまったのかもしれない。

 今年3月16日、足立区は路側帯を両側に設置するなどの安全対策を実施し、足立区と地元自治会などで踏切の安全を祈った。また、東武鉄道は非常ボタンを2か所から4か所に増設、障害物検知装置も変えることを検討しているという。

 徐々に安全対策が講じられているが、この踏切が通学路でもあることを考えると、児童が通行する時間帯だけでも、踏切に誘導員がいるとよいと思う。踏切内で転んだり、渡りきれなかい人がいたら、誘導員に非常ボタンを押してもらって、電車の運転士に異常を知らせたりできるのではないだろうか?

 踏切ごとに、必要な、またすぐできる対策も異なるだろう。それぞれの踏切の利用の実態を調べて、安全対策を検討し、実施していってほしいと思う。

 

東武伊勢崎線北千住東1丁目(伊21号)踏切
カーブにあるため、外側は高くなっている。路面の凹凸が大きい。
見通しが悪く、電車が右から来ても直前まで、見えない。
                                  2015年5月7日撮影

≪参考≫拙ブログでは、事故について、以下でとりあげた
「急カーブにある踏切~東武伊勢崎線北千住東踏切」
http://tomosibi.blogspot.jp/2014/02/blog-post_13.html

2015年4月21日火曜日

「私たちのJR福知山線脱線事故-事故から10年展」~東京・駒込で

 今月25日で、2005年に起きた福知山線脱線事故から10年がたつ。
 兵庫県尼崎市のJR福知山線の尼崎駅手前の急カーブで、事故は起きた。快速電車が制限時速70kmの急カーブを時速116kmで進入し、曲がりきれずに脱線転覆、線路脇にある9階建てのマンションに衝突し、乗客106人と運転士が死亡、526人が負傷した。
 2007年6月、国交省の航空・鉄道事故調査委員会は、運転士のブレーキ操作が遅れたことが、脱線の原因とする事故調査報告書を公表した。

 事故は、朝の満員電車で起きた。もし、東京で、朝の通勤・通学の時間帯で起きたらと、不安に駆られて毎日、乗車する人も少なくないだろうと思う。
 私自身も、乗車している電車がスピードを出してくると、気分がよくない。スピード重視の運行で本当に安全なのかと疑問を持つ。しかし、私は他に移動手段がないので、しかたなく鉄道を利用している。
 報道によると、横浜の女性が、脱線事故で負傷した男性や女性の書いた絵や模型を展示することを企画、今月22日から26日まで駒込で企画展を開くという。
 女性は、フリーライターの木村奈緒さんで、昨年、テレビのドキュメンタリー番組で2両目で負傷した小椋聡さんが事故現場の絵画や模型を製作していることを知り、企画を思い立った。
 東京で、小椋さんらの絵を見ることができれば、福知山線脱線事故を考える機会になるのではと思う。

 場所は、豊島区駒込のKOMAGOME1-14cas。午前11時から午後8時まで。入場無料。22日は午後6時半から小椋さんらのトークイベントも開催される。トークイベントは要予約。
詳しくは、「私たちのJR福知山線脱線事故-事故から10年展」http://fukuchiyama10years.tumblr.com/
≪参考記事≫
「福知山線の教訓 東京も忘れずに 横浜の女性が企画展」東京新聞2015年4月8日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2015040802000118.html

2015年4月1日水曜日

電動車いすの事故~もとめられる安全対策

 ハンドルのついた電動車いすの事故が相次いでいる。報道によると、過去3年間に起きた事故13件の重傷・死亡事故のうち、10件までが同じメーカーの製品に集中していることが、消費者庁の消費者安全委員会の調査でわかった。事故の頻度は、他社の製品の10倍以上で、製品の構造が原因の一つとみられることから、消費者安全委員会(消費者事故調)は、メーカーに改善を促し、メーカーもアクセルレバーのつけ方などを検討するという。

 重大な事故が相次いでいるのは、松山市にある農業機械メーカー「アテックス」が製造する電動車いすで、他社のブランドで販売されているものも含め、これまでに全国で約8万台が出荷されているという。
 身の回りの事故の原因を調べる消費者事故調が、昨年11月からハンドル型電動車いすの事故を調査した結果、平成24年度以降の2年8か月の間に、消費者庁に報告された13件の重傷・死亡事故のうち、8割にあたる10件までが、この会社の製品で起きていることがわかった。このうち、6人の利用者が亡くなっていることがわかったという。
 事故は、お年寄りが電動車いすに乗っていて、道路わきに転落したり、踏切で列車にはねられたりして起きている。
 消費者事故調は、その原因の一つとして、この会社の製品のアクセルレバーが、他社のものと異なり、ハンドルよりも4センチ高い位置についていることがあると見ている。ハンドル操作がしやすい反面、お年寄りが具合が悪くなってうなだれたり、意図せずにレバーに触ってしまい、レバーを押して前に進んでしまう恐れがあるという。
 このため、消費者事故調はメーカーに対して改善をうながした。メーカーは、アクセルレバーのつけ方などについて改善を検討すると消費者事故調に伝えた。

 これまでに国内では、ハンドル型電動車いすが約47万台販売されているが、このうち、このメーカーの製品は8万台あまり。重大な事故は他社の製品全体の10倍以上の高い確率で起きているという。
 
 平成24年10月に、兵庫県高砂市でおきた踏切事故では、電動車いすに乗っていた男性(83歳)が、貨物列車にはねられて亡くなった。
 
 この踏切の近くに住む男性が、この事故を目撃していた。NHKがこの男性を取材したところによると、電動車いすに乗っていた男性は、遮断機が下りたため、踏切の手前でとまった。その後、前のめりに体が倒れた後、車いすが動き出し、降りていた遮断機を押し込むかたちで、踏切の中に入ったという。目撃していた男性は、非常ボタンを押そうとしたが、間に合わなかった。この男性によると、「意識が無くなったように前かがみにたおれた。倒れた体が電動車いすのスイッチに触れたのだと思う。」と話しているそうだ。
 また、亡くなった男性の家族によると、男性は糖尿病を患っていたため、血糖値をさげる薬を飲んでいた。事故のあった早朝は、前日夕方5時の夕食から食事をしておらず、血糖値が下がったことで、意識を失ったのではないかと話しているそうだ。
 亡くなった男性の妻は、「車いすで前かがみになったのは、血糖値が下がったからだと思う。夫は、電動車いすによって、行動範囲が広がって喜んでいた。高齢者が楽しく生活に利用できるよう、より安全な製品にしてほしい」と語っているという。

 電動車いすは、30年ほど前から販売が始まった。電動車いすは、主に高齢者が利用するハンドル型と、車いすと似た形で、主に体に障害のある人が利用するジョイスティック型と、2種類ある。
 バッテリーを充電してモーターで走行し、時速6kmまで出すことができる。運転には免許は必要なく、歩行者扱いだ。足腰の弱ってきたお年寄りには行動範囲が広がると喜ばれ、利用者が増えてきている。価格は20万から30万円で、介護保険を利用してレンタルすることもできる。
 消費者事故調によると、ほとんどの電動車いすは、アクセルレバーがハンドルの上の面よりも下についているが、改善を促した電動車いすは、ハンドルよりも4cmほど上にアクセルレバーがついていたという。
 
 昨年、国際福祉機器展で、あるメーカーの電動車いすに試乗した。アクセルレバーが軽く動き使いやすいと思う半面、何かの拍子で押してしまったり、具合が悪くなって倒れこんだりしたら、レバーを押してしまい、前進してしまうのではないかと思った。
 道路交通法では、歩行者扱いの電動車いすは、免許が必要ない。高齢化が急速に進む中、お年寄りの行動範囲が広がるということで、普及が進んでいるという。しかし、高齢者が乗るものだから、事故が起きてもしかたないというのではなく、事故を防ぐ改善も必要となっているような気がする。
 高齢者も自分のすむ地域で、自立して生活することが求められている。ならば、なおさらのこと、安全に暮らせるよう、さまざまな改善や安全対策が求められていると思う。 

≪追記≫2015年4月4日
株式会社アテックスは、ホームページで、NHKの報道に対して、抗議文を掲載した。
NHKの報道は消費者庁の正式見解ではなく、NHKの独自取材による報道で、消費者庁から改善指示等も受けていないとしている。
「NHK に対する抗議文」2015年4月3日付
http://www.atexnet.co.jp/pdf/20150403.pdf
「NHK報道(電動車いす)による弊社見解」2015年4月2日付
http://www.atexnet.co.jp/pdf/kenkai.pdf

≪参考記事≫
「電動車いす事故 同メーカーに集中」2015年3月31日NHKニュース 
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150331/k10010034301000.html

≪参考≫拙ブログでは、消費者事故調の調査について、以下でとりあげた。
●「ハンドル型電動車いすの事故調査を決定~消費者安全委員会」2014年11月25日
  http://tomosibi.blogspot.jp/2014/11/blog-post_25.html

 また、電動車いすの事故については、高知県佐川町白倉踏切の事故や、阪急神戸線旧庄本踏切の事故などについて書いた。これらの事故の電動車いすは、製造メーカーがわからないものもある。
●「踏切事故の現場をたずねて~高知県佐川町白倉踏切」2010年4月26日
 http://tomosibi.blogspot.jp/2010/04/blog-post_26.html
●「電動車いすの女性が亡くなった事故~阪急神戸線旧庄本踏切」2014年5月6日
 http://tomosibi.blogspot.jp/2014/05/blog-post.html
●「電動車いすのお年寄りが亡くなった事故~大阪府高石市南海本線羽衣7号踏切」2014年7月22日
 http://tomosibi.blogspot.jp/2014/07/7.html
●「車いすで踏切を渡るこわさ」2014年10月20日
 http://tomosibi.blogspot.jp/2014/10/blog-post_20.html


2015年3月28日土曜日

渡る人の視点で事故を見なおす~踏切の実態把握を

 3月15日竹の塚教育センターで開かれた講演会で、柳田邦男氏は「事故とは、人間が死傷すること、生活・人生を破壊されること」と語った。たとえ、小さな事故であっても、被害者やその家族にとっては、人生を狂わされることになるのだ。

 そして、一つの事故で、どれだけ多くの人が、人生を狂わされることだろう。
 それは、亡くなった人の家族、友人、親類だけではない。亡くなった人が働く人ならば、有能な働き手を失った会社は、経営に息づまることもあるかもしれない。若い息子夫婦を孫の子どもらとともに失った老いた両親は、生きる希望を失うかもしれない。恋人を事故で失った女性は、電車に乗れず、働きに出ることも外にでることもできないかもしれない。長年連れ添った人を突然失った人は、生きる意欲を失うかもしれない。

 事故の対策を考える人は、被害にあった人の視点にたって、その苦しみと悲しみを想像してみてほしい。自分の心の痛みとして感じてほしい。そして、事故を無くす対策をいろいろな人に考えてほしい。

 国土交通省の統計によると、2004年から2013年までの10年間に、踏切事故で1226人の人が亡くなっている。毎年100人以上の人が踏切で亡くなっている。それらの踏切事故の多くは運輸安全委員会で事故調査されることがなく、ニュースなどで運休した運転本数や影響を受けた乗客数などが発表されるだけといってよい。
 なぜ、事故が無くならないのかと問えば、事故そのものが正確に把握されていないからではないかと思う。踏切事故では、踏切を渡っていて亡くなった人が、事故の責任を問われている。しかし、なぜ事故が起きたのかを調べ、安全対策を講じなければ、同じような事故は無くならないと思う。
 
 踏切ごとに、どんな設備があり(またはないのか)、どこがどのように危険なのか、事情は異なると思う。踏切で、いつどのような人たちが渡っているのか、お年寄りが多いのか、通学路になっているのかなど、踏切の客観的なデータを集める、事故情報を集める。そこから、一つ一つの踏切に必要な対策が見つけられると思う。

 報道によると、国土交通省は、これから踏切に関する情報を集め「カルテ」を作成するそうだ。踏切事故を無くすため、安全対策に生かしてほしい。

≪参考記事≫
「社説 踏切事故 渡る人の視点で考えよ」朝日新聞2015年3月26日
(2015年03月26日 朝刊)
http://astand.asahi.com/column/editorial/DA3S11669996S.html

2015年3月16日月曜日

竹ノ塚踏切事故から10年~柳田邦男氏が講演

 3月15日、東武伊勢崎線竹ノ塚駅近くの踏切、通称「大踏切」で、4名の女性が死傷した事故から10年がたった。

 事故のあった3月15日午後、踏切近くの竹の塚地域教育センターで、作家の柳田邦男氏を迎えて、講演会が開かれた。
  踏切事故遺族の紡ぎの会の関係者、地元足立区の住民の皆さんをはじめとして、足立区長を会長とする「竹ノ塚駅付近鉄道立体化推進連絡協議会」、足立区選出の議員、国土交通省、東京都などから、関係者が約300名参加した。

 柳田氏は講演の中で、「事故とは何か」と問い、「人間が死傷し、生活・人生を破壊されること」と語った。小さな事故であっても、人生を狂わされてしまうのが、事故だ。その事故によって、大きく人生を変えられてしまった被害者や遺族たちは、二度と同じような事故を起こしてほしくないと、各種の事故調査の充実をうったえ、再発防止をうながしてきた。柳田氏は、その意味を、事故調査の歴史の中でとらえて、遺族の活動を評価、事故調査や遺族支援がすすんできたと語った。

 講演会後、事故のあった竹ノ塚駅踏切で、有志約200人が、黙とうをおこない、足立区長や遺族が献花した後、参加者で献花した。

≪参考記事≫
「踏切事故から10年、講演会と竹ノ塚南側の踏切事故現場で献花式が行われました」
2015年3月15日足立区鉄道立体推進室鉄道立体化担当課
http://www.city.adachi.tokyo.jp/hodo/20150315kenkasiki.html
「天声人語 竹ノ塚踏切事故から10年」朝日新聞2015年3月16日
http://digital.asahi.com/articles/DA3S11652557.html?ref=nmail_20150316mo&ref=pcviewpage
≪遺族あいさつ≫
「思いを紡ぐ」 2015年3月15日竹の塚教育センターにて
(文中の個人名は削除いたしましたが、当日会場ではお名前を読ませていただいております)

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2015315

あいさつ
                                踏切事故遺族の会
                                  紡ぎの会代表
 

本日は、お忙しい中、多数ご参加いただき、ありがとうございます。

10年前、竹ノ塚駅そばの大踏切で踏切保安係が準急電車が来るのを忘れて、遮断機をあげてしまったために、おおぜいの通行人が踏切に入り、上りの準急電車にはねられて2名が死亡、2名が負傷しました。

その中に、私の母(当時75歳)もおりました。 
母は家族の中心といってもよい人で、明るく太陽のような人だったと思います。楽天家で 社交的な人でいつも前向きに見る人でした。

地域では町内会婦人部の副部長をまかされていました。地区センターで、書道教室を開いて、地域のみなさんと楽しく、時には冗談もまじえてすごしていたようです。そして、孫の成長を何よりも楽しみにしていた人でした。

事故の前の2月には、父との結婚生活も50年をむかえ、春には、家族皆で金婚式を祝おうと話していたところでした。父と母は、結婚50年の記念に、奈良の吉野山の桜を見に行こうと話していた矢先の事故でした。

何か罪になることをしたわけでもなく、平凡に日々の生活を送っていた母が突然あってはならない事故によって、命を奪われ、私たちは愕然としました。

余りに突然で、どう葬儀をとりおこなったらよいのか、何の心の準備もできていませんでした。事故の翌日、母の遺体は東京大学の司法解剖にまわされました。夕方、司法解剖の終わった母の遺体をひきとり、葬儀の支度をしました。

病気であれば、少しは母の死後のことを相談したり、母も、残していく父や子供らに別れのことばをいうこともできたでしょうに、50年つれそった父に何もいうこともできずに 電車にぶつかったことすらわからない、一瞬のうちにこの世をさりました。

私たち子供らも母に、長年の苦労をねぎらう言葉のひとつもかけてあげることもできず、 何一つ、親孝行らしいこともできないまま、突然、母を見送りました。

なぜ、こんなことが起きたのか、なぜ、罪もない母が、突然、命を奪われなくてはならないのか? 

もちろん、直接には踏切保安係が遮断機を上げたことが原因ですが、なぜ保安係が安全装置をはずして遮断機のあげさげをする状況が続いたのかということは、はっきりした答えが出されているとは思えません。

事故後、検察は、遮断機をあげた踏切保安係しか起訴せず、踏切保安係だけが実刑をうけました。
当時、鉄道や航空の事故調査をする航空・鉄道事故調査委員会は、この特異な踏切事故を 調査しませんでした。
東武鉄道の社内調査の結果は事故から4か月後、公表されましたが、開かずの踏切の状況や、踏切保安係が安全装置を外して遮断機をあげさげしているという内規違反の状態を 把握する体制が十分でなかった、本社は把握していなかったと報告しました。

現場で遮断機をあげた係員だけが実刑を受けただけで、事故の裁判は終わり、私たちは釈然としないまま、年月がすぎました。

釈然としない思いは、その後も踏切事故が繰り返されるごとに強くなりました。踏切では 毎年100人以上の人が亡くなっており、2004年から2013年までの10年間に1226人もの人が亡くなっています。 

なぜ、踏切事故は無くならないのか? なぜ、母のように突然、命を奪われなくてはならないのか? なぜ悲惨な事故がくりかえされるのかという疑問をいだいてきました。  

母と同じように悲惨な事故にあってほしくない、踏切事故が無くなってほしいと願ってきました。踏切事故を無くすには、事故の実情を把握すべきとうったえ、事故情報の収集や公開を関係者にもとめてきました。

2008年、運輸安全委員会が発足する際に、踏切事故の調査対象が広げられ、死亡者が1名であっても、鉄道係員の操作のあやまりや設備に原因があると思われる場合は、事故調査をすることが決まりました。

また 遮断機のない踏切では事故の発生する頻度が高いことから、20144月には、遮断機のない踏切でおきた死亡事故について、事故調査をすることが決まりました。昨年4月に起きた踏切事故から調査が始まり、事故調査報告書が公表されています。

私は、事故後いろいろな事故のご遺族や被害者の方々と悲惨な事故をなくし、安全で安心な社会をつくるには何が必要かといっしょに考える機会をいただきました。 

○諏訪市の遮断機のない踏切で、息子さんをなくされたご家族
○日航123便御巣鷹墜落事故で、息子さんを亡くされた母親
○港区のマンションでエレベーターの戸が開いたままあがったために、高校生の息子さんが亡くなった母親
JR西日本福知山線脱線事故で、負傷された家族がおられる方
○柔道の部活中に、息子さんが高次脳機能障害を負った母親
○鉄道事故防止の研究をしていらっしゃる運輸安全委員会の委員の方
○事故をヒューマンファクターの面から分析していらっしゃる日本ヒューマンファクター研究所の皆様
○長年にわたり、安全工学シンポジウムで研究発表する機会をあたえて下さった日本学術会議の研究者の皆様、ともに事故防止のあり方を研究してくださった専門家の皆様、そして、折れそうになる心を支えて下さった友人の皆様

この10年間、わたしども遺族にご理解とご支援くださりありがとうございました。一歩一歩、歩いてこられたのは、皆様のおかげと感謝いたしております。

踏切事故をなくすため、危険な踏切そのものをなくすという抜本的な対策に、竹ノ塚踏切事故直後から、とりくんでおられる足立区の皆様、国土交通省の皆様、東京都の皆様、地元自治会や商店街の皆様、ありがとうございました
竹ノ塚踏切では鉄道高架化工事が着々とすすみ、2020年度に完成予定と聞いています。 

踏切事故をなくすためには、抜本的な対策がもとめられますが、対策が完了するまで時間や費用がかかります。踏切では、現在も年間100名前後の人が亡くなっています。各地の踏切の実態を把握し、安全対策を検討していただきたいと思います

最後になりましたが、竹ノ塚駅付近の高架化工事が事故もなく、安全に進みますよう、心よりお祈り申し上げます

長くなりましたが、これで、わたしの挨拶を終わらせていただきます

ご清聴ありがとうございました